【非公開裁決 令和3年8月5日】事業と直接関係がなく、事業遂行上必要のない費用は必要経費に算入できず

2022年08月15日 税のしるべに
所得税法の必要経費に関する
興味深い非公開裁決が掲載されていました。

https://shirube.zaikyo.or.jp/article/2022/08/15/10256556.html

事案の概要

弁護士である審査請求人が
勤務する法律事務所に支払った費用を
事業所得の必要経費に算入して確定申告をしたところ

原処分庁が
同費用の一部は必要経費に算入することができない
として更正処分等を行った。

これに対し
請求人が処分の取消しを求めていた事案で

国税不服審判所は
同費用の一部は客観的に請求人の事業と直接の関係があるとはいえないなどとして請求人の主張を退けた。

前提として

弁護士ではない方向けに
前提として2点補足します。

1 法律事務所に勤務する弁護士は
 事業主であって労働者ではない
2 事務所で受けた事件ではなく
 その弁護士が受けた所謂個人事件については
 その収入の一部を所属する弁護士に支払う
 ことが多い

1は監査法人や税理士法人と決定的に異なるところで
健康保険は国民健康保険ですし
年金も国民年金です。
最近では雇用契約のところもあるようですが
伝統的には独立した事業者として扱われます。

2 コトバは悪いですが
 反社の上納金と考えれば理解しやすいと思います。

何が問題か

事案の概要だけを読んだときは
弁護士個人売上げに係る経費が認められなかったのか
と思いましたが

読み進めるうち違うことがわかりました。

この弁護士には
 事業所得に係る総収入金額
 給与等の収入金額
の2つの収入があり

それぞれの収入の一部を
所属する法律事務所に支払い
両方とも事業所得の必要経費として確定申告したところ

給与等の収入金額に係る分だけが
必要経費として認められなかった
というものでした。

この方は社外取締役にも就任しており
その会社からの役員報酬を
給与等の収入金額として確定申告しました。

他の役員も給与所得として申告していると思いますので
この処理自体は問題ないと思います。

問題は
給与等の収入金額に対応した
必要経費の計上が認められるのか
ということです。

所得税法37条《必要経費》は
必要経費が認められる書類類型として
給与所得を挙げていませんから

給与所得の控除項目として
必要経費経費計上は出来ません。

なので
事業所得の必要経費として計上したと思いますが
認められるためには

①事業所得に係る総収入金額を得るために直接要した費用
②販管費、一般管理費
 その他事業所得の所得を生ずべき業務について生じた費用

のいずれかに当たる必要があります。

まず①に当たらないのは当然なので
専ら②に当たるかが問題となります。

記事のコトバを借りると
「争点は…一般対応の費用に該当するか否か。」
です。

審判所の判断は

以下の理由で認めませんでした。

「本件事業の内容や事務経費分担金の趣旨、目的等の諸事情を踏まえると
事務経費分担金は
本件事業の収入金額および本件事務所以外からの給与等に係る収入金額のそれぞれに比例して
異なる趣旨・目的により生じた別個の費用の合計であるといえ

当該給与等に係る収入金額の3割に相当する本件費用は
本件事業を行うこととは無関係に生じたもので
その支払目的が本件事業を行うためとは認められず
また、本件事業を行うために支払う必要性も認められない。

したがって
本件費用は客観的に本件事業と直接の関係があるとはいえず
本件事業の遂行上必要なものとも認められないから
一般対応の費用に該当しない。」

私見

法人税に比べても
所得税の必要経費の範囲は狭いとは思いますし

弁護士の立場からすると
勘弁してくれよ正直思いますが

自分が審判官であっても
法解釈の限界や他の事案との平等を考えて
認めなかっただろうとも思っています。

社外取締役をしている弁護士さんは多いでしょうから
他人事ではないでしょう。

考えられる対策としては

社外役員報酬に対応する金額を
所属する事務所に支払って経費として申告するのではなく
事務所からの報酬から減額した額を収入に計上する

その理屈としては

裁決が事業所得としての関連性を明確に否定しているので
社外役員に従事していた時間は
事務所の業務にかかわることができなかったといえる
そうすると事務所はその時間に見合う役務の提供を受けておらず
機会損失があったといえるから
報酬から減額した

ということになるでしょうか。

総収入金額と収入金額の違いに興味がある方は

以下のコラムをご覧ください。

以上