更正の請求の特則 所得税法施行令274条の趣旨

更正の請求は
いずれも税目に共通の手続であることから
国税通則法23条に規定されています。

もっとも
固有の事情がある税目については
その税目内に特則が設けられています。
 相続税法32条   → 施行令8条
 所得税法152条~ → 施行令274条
 法人税法81条
 消費税法56条

相続税法の特則

通則法に基づいて
更正の請求を行うには
原則として
5年という期間制限があります。

しかし
揉めている遺産分割協議が
5年以内に終わることの方が珍しいのは
ご承知のとおりですから
遺産分割や遺留分請求によって
当初申告と遺産の配分が変わった場合には
5年経過後であっても
更正の請求ができることなどを規定しているのが
相続税法32条です。

所得税法の特則

所得税法は

*************
第七章 更正の請求の特例
(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)
第152条 …、その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、
    国税通則法第23条第1項各号(更正の請求)の事由が生じたとき
*************

と規定し
これを受けて施行令274条は

第七章 更正の請求の特例
(更正の請求の特例の対象となる事実)
第274条 法第152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)に規定する政令で定める事実は、
    次に掲げる事実とする。
一 …年分の各種所得の金額(…)の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた
  無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと。
二 前号に掲げる者の当該年分の各種所得の金額の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた
  取り消すことのできる行為が取り消されたこと。

と定めています。

このような定めは法人税法にはなく
所得税独特の定めです。

審判所に居た時このこの施行令が争点となった事案の担当審になったことがあり
どうしてこのような定めになったいるのかよくわからなかったのですが

https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-04341-2
こうして勝ち抜いてきた税務争訟の闘い方

という書籍で
東京地裁平成21年2月27日判決を紹介する箇所があり

納税者側の意見書を書いた三木先生が
意見書提出の経緯を説明する中が
裁判所から
所得税法施行令274条と同旨の定めが
相続税法にはない理由について
釈明を受けたのに呼応して提出したことを明らかにしていました。

詳細は書籍をお読みいただくとして

法人や個人事業者であれば
違法な収入を申告した後
それが無効等であることが判明したときは
事実が生じた年分で経費計上して
通算することで自ら当該年度以降に精算できるから
法人税法に所得税法施行令274条のような定めをする必要性は乏しい
(それで足りるかどうかは
更正の請求を認めた大阪高裁平成30年10年19日判決を破棄した
最判令和2年7月2日の判例を見れば分かるとおり
破産会社を救済できないという問題がありますが)。

これに対し
毎年申告しているわけではない個人は
精算できる機会がなく
更正の請求で救済する他はない。

また
相続財産に無効な行為等に基づくものが
含まれている場合には
相続財産として申告する必要がない以上
相続税法に所得税法施行令274条のような定めをする必要性が乏しい。

以上