裁判例 相続税の計算上、債務控除できない債務

朝日新聞2023年4月3日朝刊
に以下の記事が掲載されていました。

家族が残した借金16億円、銀行との約束守ったら申告漏れ? 訴訟に

https://digital.asahi.com/articles/ASR3Z5JTPR3QUTIL01V.html?iref=pc_ss_date_article

新聞記事だけだと
法律上の争点がわかりにくいのですが
新聞に先行して
T&A Master972号(2023.3.27)
が記事を掲載していましたので
補足します。

東京地裁令和5年3月14日判決

事実関係

1993年 父 銀行から16億借入れ
2002年 銀行→父 返還訴訟
    父死亡
     子が訴訟を承継
     子が債務を承継
2004年 裁判上の和解
     2016年までに6億3千万円を弁済すれば
     9億7千万円を免除
2014年 子死亡 妻子が債務を承継
2015年8月 相続税申告期限到来
       相続税申告に当たり課税価格から債務を控除せず
2016 年 妻子完済 9億7千万円の債務免除の効力発生
時期不明 課税庁 妻子に対し所得税等の更正処分等
          2016年の所得に債務免除が含まれず

当初借入16億円は債務なので
2014年の相続発生の結果
その妻子が当該債務を承継します。

2016年までに6億3千万円を弁済すれば
9億7千万円の債務を免除する

注意が必要なのは
承継したのは
2004年の訴訟上の和解に基づく
●条件付債務
であることです。

(条件が成就した場合の効果)
第127条 停止条件付法律行為は
停止条件が成就した時からその効力を生ずる。

つまり
2016年までに6億3千万円を完済するまでは
9億7千万円の債務免除の効果発生が
「停止」されているのです。

相続税では控除できる債務には制限がある

相続税の計算対象は
相続財産から債務を控除した金額です(13条)。

******
相続税法13条1項
・・・課税価格に算入すべき価額は
次に掲げるものの金額のうち
その者の負担に属する部分の金額を控除した金額
による。
******

これだけ読むと
停止条件付債務も控除できそうです。

しかし
相続税法14条は以下の規定をおいて
控除できる債務を制限しています。

******
14条1項
前条の規定によりその金額を控除すべき債務は
確実と認められるものに限る。
******

条件とは
法律行為の効力の発生や消滅を
将来の実現不確実な事実にかからせる特約
です。

当該債務は相続債務ではありますが
期限までに完済できるかは
「将来の実現不確実な事実」である以上
「確実と認めれらる」
とはいえません。

そうすると
相続税の計算上
当該債務を控除することはできません。

そして
相続した債務が
「停止条件の成就した時から」
債務免除という「効力が発生する」ところ

妻子は期限までに完済という
停止条件が成就した以上
2016年に債務の免除を受けることになります。

法人からの債務免除

個人からの債務免除は
贈与と取り扱われるのに対し(相続税法8条)

銀行という法人からの債務免除は
所得と取り扱われるので

No.4424 債務免除等を受けた場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4424.htm

2016年の確定申告にあたり
妻子は所得に含めて申告しなければなりません.

しかし
妻子はこれを所得に含めずに確定申告した結果
課税庁から更正処分を受けました。

新聞記事だけ読むと
感情的になりがちですが
相続税法、所得税法の条文を適用する限り
課税処分は適法とせざるを得ないでしょう。

以上

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