財産評価基本通達の総則6項の適用の可否が問題となった裁決と裁判例

仙台令和2年7月8裁決(TAINS:F0-3-693)

昨日12月8日の租税訴訟学会(https://sozei-soshou.jp/)は

株式の評価に当たり
財産評価基本通達の総則6項が適用され
評価通達に基づく評価額ではなく
鑑定評価額に基づく課税処分の適法性が争われた
標記の事案が題材でした。

第1審  東京地裁令和元年8月27日判決(金商1583号40頁)
控訴審 東京高裁令和 2年6月24日判決(金商1600号36頁)
上告中

今年8月の租税訴訟学会は

賃貸不動産の評価に当たり
財産評価基本通達の総則6項が適用され
評価通達に基づく評価額ではなく
鑑定評価額に基づく課税処分の適法性が争われた
標記の事案が題材でした。

【追記】2021年12月21日の日経ニュースによると
    上告審弁論が2022年3月15日に開かれることになりました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0742Z0X01C21A2000000/

【追記2】
 下記新聞報道によると
 判決日が2022年4月19日
 となりました。

https://digital.asahi.com/member_scrapbook/detail.html?aid=DA3S15234546&cflag=0&psub=1

「財産の価額」(22条)と 「相続税の課税価格」(11条の2)「課税価格に算入すべき価額」(13条)

賃貸不動産の事案は
いわゆる節税スキームが否定された事案であるのに対し
株式評価の事案はそうした節税とは一切無関係な事案でした。

総則6項は
「通達の定めによって評価することが
著しく不適当と認められる財産の価額は」
としているので
財産評価額の高低を問題にしていると思われます。

そうすると
株式の事案は
総則6項の適用の可否がストレートに問題となるといえます。

これに対し、
賃貸不動産の事案はちょっ違うのではないか
と考えています。

というのも
「財産の価額」(22条)の問題と
「相続税の課税価格」(11条の2)や
「課税価格に算入すべき価額」(13条)の問題を
を同じ土俵で議論すべきではない
と考えるからです。

すなわち
賃貸不動産の事案は
「財産の価額」を財産評価基本通達で評価し
借入金を「課税価格に算入すべき価額」(13条)
として債務控除すると
相続税の課税価格(11条の2)が
不当に低くなってしまうことに問題があります。

そうすると
「時価」が問題となる22条ではなく
13条や11条の2の問題なのではないでしょうか。

「財産の価額」を財産評価基本通達で評価し
借入金を債務控除して「相続税の課税価格」を計算すると
「相続税の課税価格」が不当に低くなるから

「財産の価額」の評価を修正するために
総則6項を適用するというのは
結論の先取り又は本末転倒と感じます。

したがって
賃貸不動産の事案は
一部の借入金は債務控除できないようにするなど
相続税の課税価格の計算方法で対処すべき立法課題
と考えます。

通達前文の違い

そもそも財産評価基本通達の前文には
法人税及び所得税の通達の前文のように
弾力的な運用を期する旨の記載はないので

前文を前提とする限り
課税庁は、財産評価基本通達を弾力的に
運用することは許されないのではないでしょうか。

以上