事実と意見・評価を区別しよう

 事実と意見

1981年に出版された中公新書の「理科系の作文技術」(木下是雄・著)という本に
以下の記述があります(7 事実と意見の7.1 事実と意見)。

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米国の小学校用に編纂された…言語技術の教科書…を手にした私は
たまたま開いたページに
 ・ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった
 ・ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった
という二つの文がならび、その下に
 ・どちらの文が事実の記述か?
 ・もう一つの文に述べてあるのはどんな意見か?
 ・意見と事実はどうちがうか?
と尋ねてあるのを見て衝撃を受けた。

その後に調べてみると、
事実と意見との区別は米国の言語技術教育ではくりかえして登場するもののようである。
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2018年に筑摩書房から出版された「増補版 大人のための国語ゼミ」(野矢茂樹・著)
という本も 「2 事実なのか考えなのか」(39頁)という章において、以下の構成で
事実と意見・評価を区別することを重要性を説明しています。

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2-1 事実・推測・意見を区別する
2-2 事実の多様性
2-3 意見や見方を共有していない相手に向けて話す
2-4 決めつけをはずす
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事実と意見・評価を区別することの重要性は
法律文書を書く場合にも当てはまります。

というのも、法律を適用するためには、法解釈と
当てはめが必要なのですが
当てはめの前提として
事実と評価を区別することが必要となるからです。

先に、法解釈についていうと
法律には抽象度が高い表現が用いられるので
法律の適用があるか否かを決するために
法律の意味内容を具体的に明らかにす
るという解釈という作業が必要となります。

それと同時に、具体的な生の事実のうち
法律の適用があるのがどこからどこまでの事実であるのか
を正確に切り分け

切り分けた事実が
何故法律を解釈した内容と適合するのか
(又は適合しないのか)
を具体的に説明する必要があります。

抽出した事実と解釈を結びつける作業を当てはめといいます。

当てはめをするためには
生の「事実」が法解釈の内容に適合することを論証する必要があり
そのためには、「事実」を「評価」する必要があります。

「事実」は客観的であるのに対し
「評価」は主観的ですから、

「事実」は第三者が証拠で確認することが出来るのに対し
「評価」は証拠によって第三者が確認することができないのです。

だからこそ、証拠によって「事実」を認定し
法解釈に当てはめられるように認定した「事実」を
「評価」する必要があるのです。

 事実と意見・評価は区別されているか

なぜこのようなことをコラムで書いているかというと
つい最近これが実践できていない文書に出会ったからです。

ある解雇事案において労働者側の代理人となった私は、
解雇を言い渡した雇用主に対して、
労働基準法第22条《退職時等の証明》第2項に基づき
解雇理由証明書の交付を要求しました。

すると、事実と評価又は意見が区別できていない文書が送られてきました。
例を挙げます(そのまま転記する訳にはいかないので、少しぼやかしています)。

・カッとなり若手社員に対し語尾強く威嚇的に話した
・若手社員に対し暴言を吐いた
・上席者の指示に反抗的態度をとった

どうでしょうか。

日常会話としては問題ありませんが
解雇理由の存否を争う場面では
事実が記載されていないので
争いようがありません。
上記記載の中で事実といえるのは「話した」だけだからです。

発言の中身がわからなければ
「暴言」かどうかは評価できなません。

また、「カッとな」ったかどうかは
本人以外は確かめようがありません。

さらに、「語尾強く」「威嚇的」は程度問題なので
これも事実とはいえません。

つまり、上記の評価をしたことを主張するためには
評価の前提となった事実を適示した上で
なぜそのような評価になるのかを説明した上で

その事実の存否を証拠に基づいて争うはずなのに
評価だけを示しているので
上記の記載では解雇理由に当たる事実があったかどうかを
を証拠によって確認することができません。

そこで、私は相手方に


・日時・場所を特定してください。
・「若手社員」がだれかを特定してください。
・「暴言」と評価した発言内容を明らかにしてください。
・「カッとなり」「語尾強く威嚇的に」「反抗的態度」と
評価する根拠となった事実を具体的に示してください

とお願いせざるを得ませんでした。

事実と意見・評価の区別がされてない典型的な例は
政治家の記者会見です。

記者の質問に対して
問題ないという回答を繰り返していた某政治家を思い出してください。

問題ないかどうかは回答者の評価にすぎないので
あるべき回答としては

 ●これこれという事実から判断すると【事実の適示】
 ●こういうことが言えるから【評価・当てはめ】
 ●問題ないものと考えている【意見】

です。

そうしないと、記者はファクトチェックもできないですし、
適示されなかった事実を指摘して
別の見解を提示するということもできないからです。

 任期付審判官の半数が弁護士なのは 

事実と評価・意見の区別が出来るかどうかは
司法試験や司法研修所における評価項目の一つですし、

民事裁判における認否の対象は事実であって
評価ではないので(民事訴訟規則80・81条等参照)

法曹は当たり前のように事実と評価・意見の区別をしています。

審判所の任期付審判官のうち
税法に一番に疎いはずの弁護士がなぜ半分を占めるのか。

その理由の一つが
事実と意見・評価を区別した思考ができるかどうか
事実と意見・評価を区別した議決書を起案できるかどうか
だと思います。

弁護士以外のルートで審判所の任期付職員に採用予定の方は
来年の7/10までに紹介した2冊を読んでおくことをお勧めします。

以上

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