審判所が原処分を取り消すときは

審査請求に対する審判所の結論が裁決書です。

裁決書の名義は審判所長となっているので
全ての裁決書が作成されるまでに予め
本部審判所長の目を通っていると思われるかもしれません。

しかし、大部分の裁決書は、全国にある各支部が作成し
各支部から直接当事者に送っているので
大半の裁決書は本部の所長の目を通る前に当事者に送られます。
こうしたことが出来るのは本部審判所長から
各支部の所長に権限が委任されているからです。

本部の所長が支部の視察に来た時
自分が関知しない判決書が世に出ることはないが
自分の関知しないところで私の名前で裁決書が発行されてしまうので
視察のホントの目的は
審判官が自分の名前を使わせるのに信用に足りるかどうかを見極めることだ
と冗談ぽく仰っていましたが、本音なのかもしれません。

そうはいっても、審判所本部の了解がないと
各支部だけでは裁決書を作成できないケースがいくつかあります。
そのひとつが原処分を取り消す場合です。

前回(2020年9月4日)のコラムにおいて
取り消す場合と棄却する場合では所内の手続きが異なると書きましたが、
本部の関与の有無も、その違いの一つです。

どのように本部が関与するかというと
審理の段階で、各支部が取消しが相当と考える事案について
本部照会又は本部相談という方法で
取消しの可否を照会します。
本部でどのような審理がされているのかはわかりませんが
過去の裁決との整合性は必ず検討しているでしょう。

本部検討の結果、取消可ということになると
各支部の合議体の議決後、
議決書をベースに本部と各支部が検討を行い
本部と各支部が共同して裁決書の原案を作成します。

これに対し、取消不可となると
他の裁決と同じように
各支部の合議体が作成した議決書を
各支部の法規審査担当や部長、次長、支部長等が審査して
裁決書が作成されます。

本部と各支部の判断が分かれる割合がどのくらいなのかはわかりませんが
実際、私の担当していた審査請求事案のうち
支部意見としては全部取消しを前提に本部照会をしたものの
全部取消しは不可とされた事案がありました。

取消事案となると、気の毒なのが各支部長です。
というのも、取消事案となると本部が起案を担う側面があり
各支部の支部長が決裁するのは、本部が修正した後となるため
各支部長としては手直ししたいと思っても
本部が直した後では修正しにくいからです。
そうであるにもかかわらず
あくまでも裁決書を決裁するのは支部長なのはつらいところです。

ちなみに、
取消裁決であっても、本部の関与なしに取り消すことができる支部があります。
それは東京支部と大阪支部です。
その理由は、東京支部と大阪支部の所長が法曹だからだそうです。
東京支部の所長は検察官、大阪支部の所長は裁判官の方です。

以上