私が審判所で遭遇した検察官のこと

審判所には2種類の法曹出身者がいます。

一つは、私のように特定任期付職員として採用された弁護士で、
もう一つが、裁判官や検察官などの法曹出向者です。

全ての支部に法曹出向者がいるわけではありません。
私が最初に配属された金沢支部にはいませんでした。
その後に配属された東京支部には3人の法曹出向者がいました。
支部長と審判部に所属する審判官です。

審判部所属の審判官とはいっても、合議体を構成することはなく、
合議体の議決書を裁決書として世に出すまでの、
いわば添削する役割を担うセクションにおり、
法規・審査と呼ばれています。
監査法人にいたことがある方であれば
審理部門をイメージすれば良いと思います。

東京支部の法曹出身者は、裁判官と検察官1名づづで、
各人が2年の任期で別の裁判官と検察官に交代していました。
私が横浜支所にいた2年間では、検察官出向者の交代はなかったものの、
裁判官出向者には交代があったので、
2名の裁判官と仕事をする機会がありました。

悪い意味で印象に残っているのは、検察官出向者です。
その人個人のパーソナリティの問題だとは理解してはいるのですが
司法修習のときから検察庁という組織にも、
検察官という人種にも良い印象を持っていなかったので
その人と会って修習のときの印象は間違っていなかったと思いました。

決定的だったのは、検察官出向者(Prosecutorの頭文字をとって「Pさん」といいます。)が
法規審査として関与したある私の担当事件のことです。

事案の内容をかいつまんでいうと、
投資詐欺に引っかかったサラリーマンの方が請求人だった事案で
現金で支払ったお金が回収不能になったので、
雑所得の必要経費として認めて欲しいという主張でした。
領収書などの客観的な書証はなく、
お金を渡した相手方とも連絡がとれない状態だったので、
必要経費云々以前に、現金の授受が認定できるかが問題になりました。

合議の場において、私は、客観的な証拠が見当たらないことに加え、
そもそも請求人の供述の信用性が乏しく、
さらに職権調査によって相手方からお金を受け取っていないという
回答を記載した書面が入手できたことから、
担当審判官として、現金の授受は認められないと説明しました。

これに対し、Pさんは
状況証拠や調査の段階から請求人の供述が一貫していることなどを挙げ、
現金の授受があったことを認めるのが「法曹の常識だ」と言いました。
要は、私の事実認定が間違っていると言いたいのでしょう。

事実ではなく証拠に対する評価の問題とはいえ、
相手方の回答すらも無視する姿勢を見せてきたので、
Pさんを納得させるためには、
相手方の回答を上回る決定的な証拠を入手しかないと考え、
相手方により詳細な回答を求めるとともに、
ある公的機関に照会しました。

その後、相手方からの2回目の回答があり、
それの回答によって、請求人は相手方が通謀して
実体のない契約書を作成したにすぎず、
当然お金の受け渡しなどはなかったことが明らかになりました。
そして、証拠の写しの請求を通じて
相手方の回答内容を見た請求人は、
観念して、嘘をついていたことを認め
結局、審査請求を取り下げました。

話はそこで終わりませんでした。
相手方から2回目の回答が来た2日後に公的機関から回答がありました。
そして、その回答から、請求人が相手方にお金を渡したとされる日を含む
前後一週間程度、相手方が外国にいたことが明確になりました。
つまり、その日に国内で相手方に直接現金で渡すこと自体
不可能であったことが客観的に明らかになったのです。
ちなみに照会した公的機関とは、入国管理局(入管)です。

入管から回答により、現金の授受はなかったことを
確信をもって認定できるようになりましたが、
それ以上に嬉しかったのは、
私の事案のスジの見方というか、
当初から感じていた違和感は
常識的に間違っていなかった
ということでした。
しかも回答が来たのが12/25だったので、
入管からの回答は私にとってクリスマスプレゼントになりました。

ちなみに、Pさんとは
その後も別の合議で何度か顔を合わせましたが
この件に関する言及は一切ありませんでした。
Pさんには知的謙虚さが欠けているので、
Pさんが検察に戻った後の検察事務官は大変だろうな、
つくづく思いました。

以上