弁護士費用は債務不履行に基づく損害に含まれない?(その2)
最高裁令和3年1月22日判決
(令和元年(受)第861号 取立債権請求控訴、同附帯控訴事件)は
弁護士費用が債務不履行に基づく損害に含まれないことを判示しました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/963/089963_hanrei.pdf
そして、その理由として、以下の3つを挙げています。
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理由1 契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、
約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。
←不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり
侵害された権利利益の回復を求めるものではない
理由2 契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して
契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。
理由3 土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、
同契約から一義的に確定するものであって、
上記債務の履行を求める請求権は、
上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。
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以前のコラムで理由が腹に落ちてこないので
法律雑誌の評釈・解説を待ちたいと書きましたが
漸く最新号の判例タイムズ1487号157頁に掲載されたので
ご紹介します。
理由3について
買主が債務履行を求める場合に立証すべき事実は
契約の成立という客観的事実であるから
その訴訟遂行に必ずしも弁護士の専門的知識が必須とはいえない。
確かに
①契約書が作成されていなかったなど
事案によっては契約の成立を立証することが困難
②売主から排斥し難い抗弁が主張され、
買主が弁護士に委任しなければ訴訟遂行することが困難
な事案がある。
しかし
そのような場合に支出した弁護士費用は
①契約締結時に紛争の予防しなかったことにより生じたコスト
②買主が自らの有利に紛争を解決するためのコスト
というべきであって
結果として敗訴した売主に負担させることが必ずしも相当とはいえず
誰が負担すべきかは債務不履行に損害賠償の埒外の問題である。
理由1と2について
以下の点で不法行為等の場合と状況が異なること
必要性の違い
不法行為に基づく損賠賠償等の場合
自らの意思に関係なく権利利益を侵害された被害者が
損害の填補を求めるものである
→被害回復の観点から弁護士費用の賠償をも
認める必要性が高い
これに対し
契約上の債務の履行請求の場合
→弁護士費用=給付利益を得るための取立費用
許容性
不履行の恐れがある場合
○予め不履行の場合の取立費用の負担を契約で定めることが可能
○そもそも契約しないという選択も可能
私見
ここまで読んで漸く理解できましたが
理由3は端折りすぎですね。
このような価値判断が背景にあるなら
もう少し判決文で言及すべきでしょう。
また、理由1に関する
弁護士費用=取立費用
というワードは端的な表現なので
やはり判決文に用いても良いと思います。
以上