和解条項を税務の観点から検討することの重要性

以前のコラムで
和解条項と課税リスクについて言及しましたが

これを再認識する裁決に触れたので
ご紹介します。

1 令和2年9月1日裁決

税のしるべ2021年年9月6日号によると
事案の概要は以下のとおりです。
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審査請求人が、贈与を受けたとして贈与税の申告をしていたところ
贈与者の相続人から提起された不当利得返還請求訴訟において
請求人が金員を支払う内容の裁判上の和解が成立したことにより
申告に係る贈与の一部について、その事実がなかったことになるとして
贈与税の更正の請求をした。
これに対し、
原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、
請求人が各処分の全部の取消しを求めた。
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これに対し、審判所は以下の理由から
請求を認めませんでした。

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和解の和解条項においては明確に「解決金」と記載されており、
また、・・・、
結局、返還金が各財産に相当するものであると解釈することもできない。

以上からすれば、・・・、和解によって
各財産に係る贈与の事実が
贈与時に遡ってなかったことになることが確定されたとは認められない。

従って、和解によって、
申告時に前提とした権利関係と異なった権利関係が
贈与時に遡って確定したとは認められないから、
通則法第23条第2項第1号に規定する
「和解…により、その事実が当該計算の基礎としたところと
異なることが確定したとき」に該当せず、・・・。
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2 東京地裁令和2年8月6日判決

この裁判例は
 税務通信3619号
 税のしるべ令和2年8月17日号
でも紹介されているので、ご存じの方も多いかもしれません。
判例秘書にも掲載されています(判例番号L O 7 5 3 1 7 2 0)

事案の概要は以下のとおりです。

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本件においては、
本件解決金の額が
原告の本件事業年度の益金の額に算入されるべきであるか否かに関して
訴訟上の和解に基づいて支払われた本件解決金の法的性質が損害賠償金であるか
あるいは株式の売買代金の減額分を返還するものであるか
が争われている。

この点に関して
裁判上の和解により当事者の一方が相手方に対して負担した給付義務の内容は
和解調書の文言の解釈によって定まるところ
その文言の解釈に当たっては、一般の法律解釈と同様に
文言とともにその解釈に資するべき他の事情も参酌して当事者の真意を探求し
その権利義務の法的性質を判断する必要がある。
したがって、
本件解決金の法的性質を判断するに当たっては、
本件和解条項の文言とともに、
その解釈に資するべき他の事情として
本件和解に至る経緯等を参酌した上で判断することが必要である。
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以上を踏まえ、裁判所は以下の判断をしました。

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以上のとおり
本件和解調書の記載は
本件解決金の法的性質が損害賠償金であることと整合的である一方
・・・株式の売買代金の減額分の支払であることと
整合しない部分があるといわざるを得ない。

また、本件和解の経緯に係る事情をみても・・・
株式の売買代金の減額分の支払として
本件解決金を支払う旨の合意があったものということはできず
かえって
本件解決金の法的性質を損害賠償金とみることと整合する事情もうかがわれる。

そうすると、・・・、
本件和解において、
原告が取得した対象会社の株式の対価が
過大であったことを理由とする損害賠償金として本件解決金を支払い
原告はこれを受領したものと認めるのが相当である。
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3 教訓

裁決の事案では
請求人でもある相続人が
被相続人貯金口座から生前約5年間の間に80回にわたって
合計4億7000万円の金員を引き出していたことから
不当利得返還請求訴訟が起こされ
平成31年4月
約半分を返還する内容で裁判上の和解が成立しています。

請求人は、受け取った金員の一部について
贈与税を申告していた年があったことから
これについて更正の請求をしました。

確かに、請求人からすれば
受け取った金員について返還義務があることを
前提とした和解が成立している以上
贈与がなかったことになると思えますし、
少なくとも、実際に返還した部分については
請求人には利得が残っていないという点で
課税の根拠がないようにも思えます。

また、裁判例についてみると
価格の修正であれば株式の取得価格を減額するだけなので
益金の額に算入する必要はありませんから
株式の買い手が減額であることを主張して
課税を回避したいと考えるのは当然でしょう。

しかし、いずれの事案も
 贈与の事実がなかったことにするとは解釈できない
 法的性質が損害賠償金であることと整合的
という和解条項の解釈が理由として挙げられています。

もちろん、和解条項の解釈だけで結論を出しているものではありませんが
否定する根拠として最初に言及されていることからすると
和解条項をどのようにするかは
結論は左右する重要な要素であることは間違いありません。

そうすると、
訴訟担当弁護士としては、税理士に相談して、
課税リスクを踏まえた和解条項の成立を目指すことが必須といえるのではないでしょうか。

弁護士としては和解によって受任した訴訟は終わりかもしれません。
しかし、依頼者から見ると、訴訟は紛争の一部でしかないので
受任した弁護士としては
後に続く紛争に目配せすることが重要であることを
これらの事案が示唆しているように思います。

以上