新しい消費者被害(自宅の押買い)

先日自治体の法律相談を担当したところ
ある高齢者の方が来所され
自宅マンションの売却契約について
相談を受けました。

近所の不動産屋さんに相談したところ
売却価格が安すぎるので
弁護士に相談した方が良い
というアドバイスを受け
自治体の法律相談にいらした方でした。

相談内容は

事情を聴いてみると

  •  買主は不動産会社
  •  自宅訪問を受けて売買契約締結に至った
  •  契約書は1通作成し
     原本は買主が所持
     相談者は写しを所持
     という定めとなっているが
     契約書の写しはなかなか交付してくれなかった

とのこと。

持参した契約書の写しをみると

  •  相談者の押印は実印ではなく認印
  •  契約書の写しはホッチキス止め数枚程度
  •  印鑑証明や登記簿を一式となった契約書ではない
  •  免許番号の前の番号は「(1)」なので更新はない
  •  相談日当日が引渡日

などとなっていました。

引渡しをしたのか聴いてみると

  •  引っ越し先も買主が紹介する約束だがその契約書はない
  •  猫を飼育しているので引越先も猫飼飼育可のところを
     紹介してもらうはずだったが 紹介してもらったところは
     飼育不可だったので引渡延期となった
  •  買主が相談日に2か月間の使用貸借契約書を
     自宅に持参してきて署名押印した

ということでした。

不動産の売買契約書となると
登記申請の添付書類として
耐えうる書面である必要があるので

  •  印鑑証明書や登記簿などを一式となった袋とじ
  •  実印での押印・割印
  •  当時者の人数分の原本作成

などが一般的なのですが

持参した契約書の写しは
そのような物々しいものではないなど
胡散臭いものでした。

法律上の問題にできるか

そうはいっても

  •  お金を全額振り込まれている
  •  引渡日は到来している

ので買主は契約当事者として行うべきことは
全て行っているのが本件の厄介なところです。

クーリングオフはどうか

特定商取引法は消費者保護を目的としているので
クリーングオフでは
買主となった消費者が契約を取り消せるだけでしたが
押買いが社会問題化したことに伴い

押買いを「訪問購入」(法第58条の4)と定義して
売主となった消費者がクーリングオフにより
契約書を取り消せることになりました。

しかし
宅地建物取引業法がクリーングオフを規定しているので
商取引法を根拠として
契約解消をすることができません。

宅地建物取引業法でクーリングオフはできるか

売主が宅地建物取引業者である場合
37条の2により
クーリングオフができます。

しかし今回は
買主が宅地建物取引業者なので
クーリングオフの対象外です。

民法

特別法で対処できないとなると
一般法である民法で対処するしかありません。

具体的には
詐欺や錯誤といった
主張をすることになるかと思いますが

勧誘時の録音などがないと
立証が難しいでしょう。

行政は

自宅の押買いについては
国民生活センターが注意喚起をしています。

https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210624_1.html

その後

法律相談に来ていることは業者も知っており
夜間の法律相談であったことと
自宅での待ち伏せを避けるだめ
近くに住むお子さん夫婦に迎えに来てもらいました。

お子さんご夫婦に窺がった事情をお話しして

  •  お子さんの自宅に泊めてもらうこと
  •  この後ご自宅に戻る前に警察に行き相談すること
  •  明日消費者被害の窓口(行政・弁護士会)に行くこと
     その際、固定資産税通知書を持参して
     売買価格が適正価格とどのくらい乖離しているか
     わかるようにしておくこと

をお伝えして
その日の相談は終わりました。

自治体の法律相談では
その場で受任することができないのと

本件のように
時間と対応の選択肢が少ない事案では
消費者被害事案の経験がない私が対応するよりも
消費者相談を得意としている弁護士に
お繋ぎした方がより良い結果になると思い

弁護士会の消費者専門相談を紹介しました。

私も相談者もお互いに連絡を知らないので
その後の顛末は存じ上げませんが
良い結果になっていることを祈念するばかりです。

以上 

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