重加算税 税目による違い

重加算税が課される場合については国税通則法第68条が規定しています。
重加算税は、意識的に行った隠蔽や仮装によって
所得を少なく申告した場合に課される、いわばペナルティです。

《重加算税が課される要件は同じなのに》

国税通則法はすべての税法に適用される法律ですから、
重加算税が適用される要件は、
法人税法でも、所得税法でも、相続税法でも、全く同じです。
そうすると、重加算税が課される場合は、
すべての税目で全く同じと考えるのが普通でしょう。

しかし、審判所で重加算税の可否を審理してきた経験からすると
重加算税を課すことに、比較的、積極的な税目と
慎重な税目とがあるのではないか、というのが私の印象です。

その理由のひとつが、
2020年8月14日のコラムでも触れた「事務運営指針」です。
国税通則法という共通の税法が重加算税を規定している以上、
「事務運営指針」はひとつしかないはずなのに
法人税、所得税、相続税、消費税それぞれについて
「事務運営指針」が存在しているからです。

《税目ごとのスタンスの違い》

私が重加算税を課すのに慎重だと考える税目は、
 ① 相続税法
 ② 所得税法
 ③ 法人税法
の順となります。
ちなみに、消費税は本税と併せて課されるケースが多いので
順序づけにはなじみません。

相続税法が重加算税を課すのに慎重だと考える最大の理由は
相続税法には帳簿が一切ないことです。

というのも、
重加算税を課すためには
隠蔽・仮装行為を意識的に行い
その結果を申告書に記載した結果として
税額が少なくなったことが必要で

単に事実と異なる内容を申告書に記載しただけでは
重加算税を課すことができないからです。

この点、法人税では複式簿記による帳簿作成が必要となるため
複式簿記では実体と異なる会計処理をすると
貸借対照表に歪みが出ます。
このような歪みが目立たないように調整する行為を
意識せずに行うことはあり得ませんから
そうした調整行為は隠蔽・仮装行為と認定しやすいです。

他方、所得税の場合、
青色申告の承認を受けていない白色申告の方が一定数おり
平成23年から白色申告の方においても
収入金額と必要経費に関する帳簿作成が義務付けられたとはいえ
正規の簿記の原則に基づく帳簿ではないので
白色申告者に重加算税を課すことは
青色申告者に比べてより慎重になっていると思っています。

このような事情を考えると
帳簿が存在しない相続税の場合
重加算税を課すのに慎重にならざるを得ないというのは
直感的に理解できるのではないでしょうか。

ちなみに、法人の場合、従業員の仮装・隠蔽行為を
法人の仮装・隠蔽行為と評価できるか
という別の問題があるのですが
それは別のコラムで言及したいと思います。

以上