4,300万円回収手続の根拠規定を考える
4,300万円の回収が話題となっていますね。
当初の報道で
国税徴収法を活用した
と聞いたとき
4,630万円は
不当利得返還請求権
という民事上の金銭債権なのに
どうして国税徴収法が使えるのだろうか
と不思議に思いましたが
その後
相手には町に滞納していた税金があった
という報道に振れ
ようやく腑に落ちました。
とはいえ
・町民税の滞納額はせいぜい数十万円なのに
どうして4,300万円も回収できるのか
・そもそも地方税なのに国税徴収法が活用できるのか
などは非常にわかりにくいので
私の理解を以下記載します。
地方税と国税徴収法
地方税法第331条第6項は
以下のように規定しています。
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前各項に定めるものその他
市町村民税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については
国税徴収法に規定する滞納処分の例による。
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ちなみに
このような規定は地方税に限りません。
例えば
国民健康保険料の滞納について
国民健康保険法79条の2は
以下のように規定しています。
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市町村が徴収する保険料その他この法律の規定による徴収金は
地方自治法第231条の3第3項に規定する法律で定める歳入とする。
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これを受けて地方自治法231条の3第3項は
以下の規定をしています。
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…督促を受けた者が
…期限までにその納付すべき金額を納付しないときは
…地方税の滞納処分の例により処分することができる。
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国税徴収法
国税徴収法の恐ろしいところは
・裁判所が関与せずに差押えができる
・滞納額を超えた取立てが可能である
ことです。
裁判所は関与しない
私人間で差押えなどを行うためには
裁判所で判決を得ておく必要があるなど
裁判所の関与が不可欠です(民事執行法22条など)。
町が提起した民事訴訟において
相手の男性が認諾をした
という報道がありましたが
今回の債権は
町が当事者であっても
私人間の債権にすぎないので
民事執行のレールに乗せる必要があり
そのために訴訟を提起したわけです。
また
仮差押え命令が発令され
3社の預金について
国税徴収法に基づく差押えに加え
民事保全法に基づく仮差押えもした
という報道もありましたが(読売5/25)
訴訟が終わるまで財産が確保されていないと
裁判を起こす意味がないので
民事保全法に基づく仮差押えも重ねて行った
ということになります。
これに対し
国税徴収法の下では
裁判所の関与なしに
差押えを行うことができます(47条以下)。
滞納額を超えた取立てが可能
差し押さえる債権の範囲について
国税徴収法63条は
以下のように規定します。
***********************
徴収職員は
債権を差し押えるときは
その全額を差し押えなければならない。
ただし
その全額を差し押える必要がないと認めるときは
その一部を差し押えることができる。
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そして
取立てについて
国税徴収法67条は
次のように規定します。
******************
徴収職員は、差し押えた債権の取立をすることができる。
******************
これを受けて
通達は以下のように定めています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/05/01/03/067/01.htm
*******************
(取立ての範囲)
2 債権を差し押さえたときは
差押えに係る国税の額にかかわらず
被差押債権の全額を取り立てるものとする
(法第67条第1項)。
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差押えの範囲については
裁判例として
熊本地裁昭和51年9月28日判決
があります。
これに対し
民事執行法155条1項ただし書きは
債権額と執行費用を超えた取立てを禁じています。
業者の預金口座が相手の財産といえるのか
報道によれば
相手方と業者が委任関係にあることを前提に
業者の預金口座を相手の財産とみなした
とあります。
報道だけでは正確なロジックはわかりかねますが
俗っぽくいうと
いわゆる名義預金
という主張をしたものと思います。
裁判所が仮差押え命令を発令したということは
この主張を認めたということでしょう。
国税徴収法に基づく差押え手続に問題はないのか
滞納税額の回収という名目であれば
1社だけの預金差押えで十分であるにもかかわらず
3社の預金を差し押さえたことについて
不服申立てで争うことは可能でしょう。
しかし
不服申立てがされる可能性は極めて低いので
町はリスクを承知で差し押さえたのでしょう。
法的に確保の意味
町はまだ4,300万円を回収したとは言っておらず
法的に確保した
と言い方に終始しています。
町は相手に対し
不当利得返還請求権
という金銭債権を有すると同時に
町は相手に対し
国税徴収法129条3項に基づく
超過回収額の返還義務
という金銭債務
も負っている状態ではあります。
もっとも
不当利得返還請求訴訟において
相手は4,630万円の返還義務を認諾しているので
超過額を超える分について
町側は
民事執行法に基づく差押えができる条件が揃っています。
こうした
事実上は回収可能な状況を指して
法的に確保した
と言っているものと思われます。
以上