令和3年1月13日福岡裁決から学ぶ提出遅れの恐ろしさ
青色申告の承認の取消処分が争われた事案です。
(福裁(法)令2- 2) TAINS F0-2-924
事実経過
請求人は6月決算の法人
昭和61年度以降の各事業年度の法人税について青色申告の承認を受けていた
申告は税理士法人に委任
税理士法人は、2年連続して確定申告書を期限に遅れで提出
平成30年6月期 平成30年9月18日(本来の期限は平成30年8月31日)
令和元年6月期 令和元年9月10日(本来の期限は令和元年9月2日)
法令等は
法人税法127条法人税第1項に基づく
青色申告の承認の取消しに関し
「法人の青色申告の承認の取消しについて
(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課法2-10ほか3課共同)の
4《無申告又は期限後申告の場合における青色申告の承認の取消し》は
2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に行うとしています。
他方
5《相当の事情がある場合の個別的な取扱い》において
本件事務運営指針の4に該当する場合においても
役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が
知り得なかったこともやむを得ないと認められるなど
その事実の発生について特別な事情があり、
かつ、再発防止のための監査体制を強化する等
今後の適正な記帳及び申告が期待できるなど
取消しをしないことが相当と認められるものについては
本件事務運営指針の4にかかわらず
所轄国税局長と協議の上その事案に応じた処理を行うもの
とされています。
結論は棄却
2事業年度連続して期限後申告となったことは
争いのない事実なので
請求人は
指針5の特別な事情があったと主張しましたが
以下の理由のとおり
認められませんでした。
***************
請求人は…、
自己の判断と責任において
本件税理士法人に税務代理を委任したものであり…
2事業年度連続して期限後申告になった原因が
…税理士法人にあり
その事実を請求人が知らなかったとしても…
それは請求人の責任の範囲内の行為であり
請求人の責めに帰すべき個別の事情にすぎず
請求人の主張する事情は
本件事務運営指針の5に定める
その事実の発生についての特別な事情とは認められない。
****************
代理人の行為を本人の行為
と同視するのが代理の本質なので(民法99条参照)
代理人のミスだから
本人のミスではない
とは言えないので
請求人の主張は
無理筋と言わざるをえないでしょう。
また
2事業年度連続して期限後申告になった本当の原因が
会社が資料を提供しなかったなどの原因がない限り
税理士法人の損害賠償責任は避けられないでしょう。
さらに
請求人によると
「本件税理士法人の担当職員から
期限内申告であるかのような日付が
記載された申告書の写しを渡されていた」
という主張がされており、
これが事実であるとすれば
賠償保険の対象外となる可能性があるとともに
懲戒の可能性すらあるのではないでしょうか。
大企業でも
三井住友信託銀行が
特定民間国外債の利子源泉非課税規定
の適用が受けられず
東京国税局から
源泉所得税に不納付加算税、延滞税を加えた
約18億円の追徴課税処分を受けたのも
「利子受領者確認書」が
支払日の翌月末までに
提出されていなかったからです
(租税特別措置法6条4項参照)。
銀行は裁判で争いましたが
●東京地裁令和2年12年1日判決
●東京高裁令和3年9月30日判決
のいずれの裁判でも
銀行の主張は認められませんでした。
いずれも税務手続の事務ミスは
取り返しがつかないことを示す事例として
自戒を込めて紹介しました。
以上
【追記】
東京地裁令和2年12年1日判決は
令和3年重要判例解説
の#1の裁判例として
紹介されていました。