和解条項を税務の観点から見直す
税務面からの検討がないと、課税リスクを増幅されてしまうのが
和解です。
例を挙げてご説明します(当事者は個人を想定しています)。
1 B は、Aに対し、本件借受金債務として10,000,000円の支払義務があることを認める。 2 B は、Aに対し、前項の金員を、次のとおり、分割して、Aが指定する銀行預金口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料はBの負担とする。 (1) 令和5年10月31日限り、6,000,000円 (2) 令和6年10月31日限り、4,000,000円 3 Bが期限の利益を失うことなく前項(1)の金員を支払ったときは、Aは、Bに対し、前項(2)の支払義務を免除する。 |
弁護士の方であれば、馴染みのある和解条項案だと思います。
その後、Bが約定通り、6,000,000円を支払ったとします。
この場合、生の事実としては、Aは
Bが支払った6,000,000円を受け取っただけですが
法的には、AのBに対する金銭債権10百万円のうち、
6,000,000円はBの弁済によって消滅し、
残額の4,000,000円はAのBに対する債務免除によって消滅します。
債務免除は、税務の立場からは、
Bは債務免除によって消滅した4,000,000円について
経済的利益を得たものと評価するので、
4,000,000円はAからBへの贈与になります
(相続税法8条、所得税法9条1項16号参照)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4424.htm
ちなみに、Aが法人の場合には
Bの一時所得になります(所得税法34条1項、相続税法21条の3第1項1号参照)。
こうしたBの課税リスクを回避するためには、
①債務として確認する金額を6,000,000円とする
②約定通りにBが6,000,000円を支払わなかった場合に、
ペナルティとして、直ちに 4,000,000円支払うという
和解内容にしておくべきです。
そうすれば、Bに債務免除益が発生しないからです。
したがって、私が和解条件を作成するのであれば
以下の条項案を提示します。
1 B は、Aに対し、本件借受金債務として6,000,000円の支払義務があることを認める。 2 B は、Aに対し、前項の金員を、次のとおり、Aが指定する銀行預金口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料はBの負担とする。 (1) 令和5年10月31日限り、6,000,000円 3 Bが前項の支払いを怠ったときは、Bは、Aに対し、第1項の金員とは別に、4,000,000円の支払義務があることを認め、直ちに4,000,000円をAが指定する銀行預金口座に振り込んで支払う。 |
合意書の内容いかんによって税務上の取扱いが変わるのであれば、
不利な要素はできるだけ排除することが
弁護士にも求められると思います。
ちなみに、実際に携わった審査請求の事案で
冒頭のような和解合意書を見たことがあります。
法人Aの従業員Bが架空仕入れをした顛末としての和解でしたが
法人 Aが債権として計上していたのは6百万円でした。
和解合意書に則れば、法人Aは10百万円を債権として計上し
Bが約定通り履行したときに差額4百万円を処理すべきですから
税務署としては、債権としては10百万円を計上すべきであり
差額4百万円を益金の額に計上する更正も出来たと思うのですが
そのような更正はされていませんでした。
従業員Bの仮装行為が法人Aの仮装行為と評価できるかが争点の事案だったので
問題視されなかっただけなのかもしれませんが。
以上