税務署と他の行政機関との情報共有

相続で取得した共有不動産を売却したところ、
年末頃に税務署から譲渡所得の申告を促す案内書が届きました。
どうして税務署が不動産を売ったことを知っているのか不思議に思い、
当時勤務していた国税不服審判所の所得税出身の職員に聞いたところ、
不動産移転登記があった場合、法務局との取決めにより、
税務署長に通知がされる運用になっているから、
との回答でした。

公務員の方にとっては当たり前なのかもしれませんが、
民間の人間にとっては、
死亡届の通知(相続税法58条参照)のような法律の根拠がないのに、
そのような情報連携が行われているのか、
と軽い驚きがありました。

そうはいっても、審判所に勤務していた3年間では、
行政共助の名の下にその恩恵を被ったこともありますので、
私が遭遇した範囲で、
税務署が行政機関がどのような情報を共有しているのか、
思いつくまま挙げていきたいと思います。

 固定資産税に関する情報

市町村などに23条の2照会(いわゆる弁護士会照会)をしても、
守秘義務(地方税法22条参照)を理由に回答拒否されますが、
国税庁との間に協定により、税務署からの照会には対応しているようです。

この背景には、建物の相続税評価額として
固定資産税評価額が採用されていることも大きいと思われます。
実際、私が担当した事案において、税務署は、市役所から
家屋の固定資産税評価額の計算過程の説明を受けていました。

ちなみに、上記の協定には国税不服審判所は加わっていないので、
私が担当審判官となった事件において、
請求人が所有する建物の固定資産評価額を照会したものの、
守秘義務を理由に回答は拒否されました。
逆に、別の事件において、
市役所にある情報提供の協力を求めたところ、
請求人が所有する不動産に関する情報ではなかったため
相当渋られましたが、守秘義務に抵触しない範囲で
何とか協力して頂いたことがありました。

 不動産登記に関する情報

国税庁との間に協定があり、上記のとおり、
法務局から税務署長に情報提供が行われているようです。

 裁判記録の閲覧謄写

第三者が裁判記録のコピーを入手しようとする場合、
利害関係を疎明する必要がありますが
(民訴法91条、家事事件手続法47条、254条参照)、
行政機関には行政共助による閲覧謄写が認められています。

この行政機関には国税不服審判所も含まれており、
私が担当審判官となった事件のうち、3つの事件で謄写を行いました。

ある裁判所の支部に謄写に行った時、
コピー機の前のパーテーションに謄写来所予定の貼り紙があり、
その中にはいくつかの税務署の名前があったので、
税務署も利用していることは間違いありません。

【補足】
山中理司弁護士のブログにおいて
当コラムを引用していただいた上で
根拠と思われる通知の紹介がありましたので
ご紹介します(山中先生ありがとうございます。)。


 おまけ

某携帯会社は弁護士会照会しても回答が来ませんが、
私が担当審判官となった事件において、
その某携帯会社に国税通則法97条に基づく照会をしたところ、
すぐに回答が来ました。

行政機関の情報ではないですが、
国税不服審判所第11回のコラムに
「審判所と弁護士との情報収集能力の違いを痛感させられた」
と書いた契機となったことなので、
このコラムで書いておきました。

https://www.kfs.go.jp/shinpankan_info/column/index.html

 追記

国税通則法第74条の7の2《当該職員の事業者等への協力要請》が新設され、
令和2年1月1日から施行されていますので、
同日以降の調査における「事業者又は官公署」から国税に対する情報提供には
法律上の根拠があることになります。

以上

前の記事

再調査の請求を経るべきか(2)

次の記事

事実と意見・評価を区別しよう