和解条項を税務の観点からも検討する
ジュリスト2022年4月(1569号)の
租税判例研究の裁判例は
解決金の趣旨が問題となった
東京地裁令和2年8月7日判決でした。
判決当時、税務雑誌に紹介されていたので
税理士の先生にはご記憶にあると思います。
●税のしるべ 3422号(2020年8月17日)
●税務通信 3619号(2020年8月31日)
この裁判例については
過去のコラムでも言及しましたが
示唆に富む裁判例なので
改めて取り上げます。
事案の概要
いわゆる表明保証違反があった事案です。
株式取得後、対象会社において
不適切な会計処理が判明したことから
表明保証違反に基づく
補償金を請求する訴訟を提起したところ
解決金を支払う
訴訟上の和解が成立しました。
本件は解決金を受け取った
法人株主における
税務処理が問題となりました。
問題の所在
株式価格の修正 解決金の額を益金の額に算入するとともに
同額を株式評価損として損金の額に算入
損害賠償金 益金の額に算入(改正前法人税法22条、通達2-1-4)
損害賠償金にされると
課税所得を構成するのに対し
株式価格の修正であれば
益金に算入される額と
損金に算入される額が同額となり
結果的に
課税所得を構成しない
ことになります。
本件の解決金の額は
1億4千万円であったことから
損害賠償金とされてしまうと
課税所得に与えるインパクトが
大きく異なってきます。
裁判所の判断は
本件解決金は
損害賠償金の性質を有する金員であり
…和解期日において請求権が確定し
同月中に支払われたことからすれば
本件解決金の額は
これらの日を含む…事業年度における
益金の額に算入すべき金額となる。
また、…課税事業年度の課税標準法人税額については
当該益金の額を
…事業年度の益金の額に算入した所得金額に対する
法人税額とすべきこととなる。
そして
本件解決金の額と同額を
損金の額として差し引くべきことを認めるに足りる事情
があるとは認められない。
和解条項の重要性
裁判所は和解条項の判断枠組みとして
以下のように述べています。
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…裁判上の和解により
当事者の一方が相手方に対して負担した
給付義務の内容は
和解調書の文言の解釈によって定まるところ
その文言の解釈に当たっては
一般の法律解釈と同様に
文言とともにその解釈に資するべき
他の事情も参酌して当事者の真意を探求し
その権利義務の法的性質を判断する必要がある。
したがって
本件解決金の法的性質を判断するに当たっては
本件和解条項の文言とともに
その解釈に資するべき他の事情として
本件和解に至る経緯等を参酌した上で
判断することが必要である。
=======
この点に関し
裁判所は、まとめの冒頭部分で
…和解調書の記載は
本件解決金の法的性質が
損害賠償金であることと整合的である一方
…所有株式の売買代金の減額分の支払であることと
整合しない部分がある…
と述べており
和解調書の記載を重視していることがわかります。
ほかの事情として
価格調整の趣旨であれば
解決金の債務者は対象会社のみであるはずなのに
本件では対象会社の役員も
解決金の連帯債務者となっていたことも
考慮されていますが
決め手は和解調書の記載だったと思います。
そうすると
この裁判例は
裁判にかかわる弁護士としては
解決金の税務処理を念頭においた
和解条項にしなければならない
ことを教えてくれる事例といえるでしょう。
以上