財産分与で得た財産を譲渡した場合の取得費(東京地裁H3.2.28判決)

事実経過

昭和57.3.8 和解による裁判離婚
      財産分与として元夫から新宿区に所在する土地を取得

昭和57.7.1 元妻:上記土地の売却(約3億円)

昭和58.3.15 元妻:確定申告(分離課税の短期譲渡所得金額ゼロ)
       ∵譲渡に係る収入金額3億=取得価額3億

      元夫:上記土地に係る譲渡所得を申告せず

昭和59.2.29 四谷税務署長
       元妻に対し譲渡所得は3億とする更正(第1処分)
       ∵取得価額ゼロ円       

昭和60.11.26 国税不服審判所による一部取消し(TAINSコードJ30-1-01)
       ∵取得価額2億      
   
昭和61.3.15 四谷税務署
       譲渡所得1億とする更正(第2処分)
       ∵譲渡に係る収入金額3億-取得価額2億        

平成3.3.28 東京地裁(判例タイムズ766号(1991年11月15号))
       譲渡所得ゼロ
      ∵譲渡に係る収入金額3億=取得価額3億

税務署への疑問【その1】 
なぜ元夫に対して課税処分をしなかったのか。

結論と判決理由については
異論はないのですが
税務署の処分に対して疑問が残ります。

元夫は、上記土地に係る譲渡所得を申告していないので
元夫に対する課税処分をするのが
最高裁令和2年3月24日判決が言及するように
譲渡所得に対する課税の趣旨に沿うはずです。

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譲渡所得に対する課税は、
資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、
その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、
これを清算して課税する趣旨のものである
(最高裁43年10月31日第一小法廷判決、
最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決)。

すなわち,譲渡所得に対する課税においては,資産の譲渡は課税の機会にすぎず、
その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して
課税されることとなるところ、

所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により
譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産について
その時点において生じている増加益の全部又は一部に対して
課税できなくなる事態を防止するため、
「その時における価額」に相当する金額により
資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される。
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税務署への疑問【その2】 
なぜ最初の処分において取得費をゼロとしたのか


元夫が譲渡所得を申告していないこと及びこれに対する課税処分をしていないこととと
密接に関連しますが

昭和57年3月から7月のわずか4か月間に
  元夫 → 元妻 → 買主
という取引がされているので、
  
元妻にだけ課税しておけば、上記最判が懸念する
「増加益・・・に対して課税できなくなる事態を防止」できると
考えたからではないでしょうか。

また、妻は、買主に対する売却によって金銭を取得しているのに対し
元夫は財産分与によって金銭を取得していないので
納税資金ということへの配慮もあったのかもしれません。

しかし
夫と妻は納税者として別個の人格ですし
 
財産分与者に対して課税することは
通達33-1の4で明記されているのですから

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm

税務署としては
分与者に対する課税を手控えること自体
課税の公平性を損なうのではないでしょうか。

最後に

私としては
財産分与者に対する譲渡所得課税を認めた
最高裁昭和50年5月27日の判決は
 
仕訳で考えれば
 (借)分与義務 (貸)財産
となるのであって
分与義務の消滅=経済的利益にはならないという意味で
その理由に疑問があります。
 
一般の方からも理解が得られないと思いますし
そもそも納税資金を得ていないので
分与者に対する課税を回避する措置を手当すべき時期に来ているのはないでしょうか。 
 

以上