2019年7月以降に開始した相続において、2020年4月以降に遺留分請求した場合の取扱い

 消滅時効と法定利率はどうなるのか

改正相続法施行後、改正債権法施行前に相続が開始され、
改正債権法施行後に遺留分侵害請求の意思表示をして
遺留分侵害請求権という金銭債権が発生させた事案において

当該金銭債権については改正後の債権法が適用されると考えてよいのでしょうか。
具体的には
①消滅時効
②遅延損害金の法定利率
が問題になります。

というのも、

消滅時効の期間は
■権利行使できる時から10年なのか
■権利行使できることを知った時から5年なのか
という違いがありますし

遅延損害金の計算に用いる法定利率は
■5%なのか
■3%
という違いが生じるからです。

 私見

いずれも新法が適用されると考えました。

1 時効期間

意思表示という法律行為を2020年4月以降に行った結果として
遺留分侵害請求権という金銭債権が発生しており、
これは施行日後に債権が生じた場合に当たるからです(附則10条参照)。

したがって、本件の遺留分侵害請求権の時効期間は
権利行使できることを知った時から5年となるのではないでしょうか。
 なお、相続は「法律行為」そのものではなく、
法律行為としての遺留分請求の意思表示(形成権の行使)は施行日後にされているので
「その原因である法律行為が施行日前にされたとき」には当たらないと考えました。

2 法定利率

遺留分侵害請求権という金銭債権が発生したのが改正民法施行後であり、
金額請求が未了である以上、遅滞に陥るのが今後であるから(附則17条参照)
新法が適用されると考えました。

なお、相続は「法律行為」そのものではなく、
法律行為としての遺留分請求の意思表示(形成権の行使)は施行日後にされているので
「施行日以後に債務が生じた場合であって、
その原因である法律行為が施行日前にされたとき」には当たらないと考えました。

 最後に

私が調査した限りでは金銭債権としての遺留分侵害額請求権について
時効や法定利率に言及した書籍が見当たらなかったので
上記のとおり考えたのですが
ご意見があればご教示頂きたいです。

《参考》附則
(時効に関する経過措置)

第十条 施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、
その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)
におけるその債権の消滅時効の援用については、
新法第百四十五条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

2 施行日前に旧法第百四十七条に規定する時効の中断の事由又は
旧法第百五十八条から第百六十一条までに規定する
時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については、
なお従前の例による。

3 新法第百五十一条の規定は、
施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合
(その合意の内容を記録した電磁的記録
(新法第百五十一条第四項に規定する電磁的記録をいう。附則第三十三条第二項において同じ。)
によってされた場合を含む。)におけるその合意については、適用しない。

4 施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、
なお従前の例による。

(債務不履行の責任等に関する経過措置)

第十七条 施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって、
その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。附則第二十五条第一項において同じ。)
におけるその債務不履行の責任等については、
新法第四百十二条第二項、第四百十二条の二から第四百十三条の二まで、
第四百十五条、第四百十六条第二項、第四百十八条及び第四百二十二条の二の規定にかかわらず、
なお従前の例による。

2 新法第四百十七条の二(新法第七百二十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定は、
施行日前に生じた将来において取得すべき利益又は負担すべき費用についての損害賠償請求権については、
適用しない。

3 施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、
新法第四百十九条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

4 施行日前にされた旧法第四百二十条第一項に規定する損害賠償の額の予定に係る合意
及び旧法第四百二十一条に規定する金銭でないものを
損害の賠償に充てるべき旨の予定に係る合意については、なお従前の例による。

以上