遺留分減殺請求権にはなかった侵害額請求権特有のリスク

はじめに

遺留分減殺請求権と遺留分侵害額請求権は
いずれの請求権も

 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があった時から1年間
 または相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があった時から1年間

という期間内に権利行使しないと時効消滅する点では共通していますが
権利行使した後に生じる権利内容が全く異なります。

というのも、遺留分減殺請求権行使の結果生じるのは物権であるのに対し
遺留分侵害額請求権の行使の結果生じるのは金銭債権だからです。

この権利内容の違いにより
遺留分侵害額請求権には特有の
税務リスクと法律上のリスクがあります。

法律上のリスク 消滅時効

金銭債権には消滅時効という物権にはない消滅リスクがあります。

すなわち、遺留分侵害額を請求した時から5年が経過すると
その金銭債権は時効により消滅してしまいますから(民法166条1項1号)

時効の完成猶予を図るために裁判を提起するなどの措置が必要となります。

税務リスク 譲渡所得課税

遺留分減殺請求権の行使によって
権利者は相続財産の共有者となり
相続財産の持分割合も変わります。

そのため
権利者と義務者間が相続財産をやりとりして解決した場合
義務者は更正の請求によって
既に申告した相続税額の減額を求めることができます
(旧国税通則法32条)。

これに対し
遺留分侵害額請求権の行使によって
権利者から義務者に対する金銭債権が発生するだけで
相続財産の持分割合は変わりません。

そのため
遺留分侵害額請求を受けた義務者が
その履行として相続財産を交付した場合
譲渡所得という所得税が課されることになります。

この点については、2021年1月14日のコラムに書いているので
併せてご覧ください。

以上