裁判例 「債務の免除」(国税徴収法39条)の解釈(代位弁済に基づく求償権)

T&Aマスター912号40頁に、代位弁済が問題となった裁判例が紹介されていました。

事実経過

平成25年頃 会社:不動産売却による借入金返済を決定
平成26年4月30日 会社:関東信越国税局に対する再生計画の通知
平成26年6月24日 関東信越国税局長:役員Aらが持分を有する各不動産について参加差押えを解除した旨の通知
平成27年4月27日
(1) 役員による会社借入金の代位弁済
 役員Aは、会社の銀行に対する借入金債務合計2048万の連帯保証人として代位弁済。
(2) 上記(1)の求償権と役員貸付金の相殺
 役員Aは、会社からの借入金588万円と上記(1)の求償権を対当額で相殺
(3) 役員Aによる債務免除
 上記(1)の求償権残額1,460万円の債務免除
平成28年8月4日 会社:債務の免除を求める内容を含む事業再生計画書を金融機関に提出
平成28年9月30日 再生計画が成立

紛争の経過

再調査  棄却 平成30年1月15日
裁決   棄却 平成30年11月13日
東京地裁 棄却 令和2年11月6日判決(TAINS Z999-721)
東京高裁 取消 令和3年12月9日判決(T&Aマスター912号40頁)

代位弁済の仕訳

代位弁済における原債権と求償権の関係については
最判昭和59年5月29日及び最判昭和61年2月20日
が明らかにしています。

この点について、以下のコラムで言及しているので
ご参照ください。

重要なことは

  • 原債権(本件では銀行からの借入金)と求償権は別個の債権であること
  • 代位弁済によって、原債権は代位弁済者に移転し、消滅しないこと
  • 原債権は、求償権が消滅すると当然に消滅すること

です。

これを前提とすると、平成27年4月27日の仕訳は以下のようになるはずです。

役員A会社
(1)代位弁済(借)求償権  2,048
(貸)現金預金 2,048
仕訳なし
(2)相殺(借)借入金 588
(貸)求償権 588
(借)借入金(原債務)588
(貸)債務消滅益   588

(借)放棄損   588
(貸)貸付金   588
(3)債権放棄(借)放棄  1,460
(貸)求償権 1,460
(借)借入金(原債務)1,460
(貸)債務消滅益   1,460

役員Aによる会社の借入金の代位弁済は
会社にとっては
債権者が銀行から役員Aに代わるだけなので
仕訳はありません。

そうすると
会社としては、求償権に対応する債務が会計上発生しないので
相殺の仕訳もできないと思います。
また、求償権の放棄に対応する仕訳として
債務免除益という仕訳にはならないと思います。

したがって
求償権放棄によって原債権が当然に消滅し
その消滅原因よって収益が発生した
という理解になるのではないでしょうか。

その意味で
厳密には「債務の免除」ではなく
「その他第三者に利益を与える処分」
と解するのが適切だと考えます。

以上

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