国税局職員は民法を理解しているか?

弁護士は税法をわかっていない。
よく言われることですし、多くの場合、事実でしょう。

では、逆に
税務に携わる方は、民法などの私法を理解できているのでしょうか。

 取消しの効力

契約が詐欺を理由に取り消されると
契約は最初からなかったことになります(民法121条)。
契約当事者は契約前の状態も戻さなければなりませんから(民法121条の2)、
出資契約が取り消されると
出資を募った人は預かった出資金を返還しなければなりませんし
分配金をもらった出資者は分配金を返さなければなりません。

出資契約に基づき1億円を出資したものの
出資契約に基づく分配金を払ってくれないので
出資者が契約の取消しを求めて裁判を起こし
これが認められた場合、

判決文は原告に1億円払え、というにとどまり
判決文は契約の効力や分配金の取扱いには言及しません。
あくまでも、判決の理由の中で、契約が取り消されたことなどが書いてあるだけです。

しかし、判決文が契約は取り消されたことに言及していないからといって
契約が有効であるということにはならないことは
裁判をご存じない方でも直感的に理解できると思います。

 課税庁側は民法を理解しているか

ところが、局の審査請求担当者の中には
上記を知らないとしか思えない、と思わせる方がいました。

というのも、
裁判で出資契約の取消し認められ、
その出資契約に基づく分配金を所得の収入金額
とすることの可否が問題となった事案において、
審理セクションから税務署職員宛に発出されたメールに
目を疑うような文があったからです。

判決文では契約の効力について言及がないから
出資契約は有効であることを前提に処理すべきであり
出資契約に基づく分配金は所得の収入金額として取り扱うべし
というものだったのです。

その担当者は民法121条を意識していないのは明らかだったので
民法121条を示唆して釈明を求めたところ
提出期限から1週間遅れて漸く回答書の提出がありました。

しかし、「契約は無効となったものの」という枕詞が加わっただけで
主張が前と変わっていませんでした。
それどころか、
新たな主張を追加し、それが他の主張と新たな矛盾を引き起こすというもので
回答書がフォローになるどころか
かえって傷口を広げた感が否めませんでした。

その審理担当者では助け舟を出しても気付かないことから
その上席者にコンタクトをとったところ
その方はすぐに問題の所在を理解してくれ
余計な時間がかかりましたが、軌道修正してもらうことができました。

大規模な局の審査請求担当者であっても
民法を理解していない職員がいて
そうした職員が税務署を指導しているのだから
民法が処分の前提となっているケースでは
税務署が誤った処分がするのは仕方ないのでは
と思いました。

 審判所は民法を理解できているか

次は、審判所が民法の理解を間違えていたことを示す
裁判例をご紹介します。

以上